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大阪地方裁判所 平成12年(ヨ)1765号 決定

債権者

甲野一郎

外四名

右債権者五名代理人弁護士

北村巖

古田子

榎本比呂志

片桐浩二

債権者乙山二郎、同丙川三郎、同丁原四郎、同戊田五郎代理人弁護士

松井千恵子

債務者

学校法人○○大学

右代表者理事

春木太郎

夏谷次郎

右債務者二名代理人弁護士

菅生浩三

奥村正策

小北陽三

大野康裕

科埜眞義

小林弘和

吉岡康博

主文

本件申立てをいずれも却下する。

申立て費用は債権者らの負担とする。

事実及び理由

第一  申立ての趣旨

一  債務者夏谷次郎は、債務者学校法人○○大学において学長及び理事としての職務を執行してはならない。

二  債務者学校法人○○大学は、債務者夏谷次郎に学長及び理事としての職務を執行させてはならない。

三  債務者夏谷次郎の職務執行停止の期間中、己村六郎(住所<省略>)を職務代行者に選任する。

第二  事案の概要

一  本件は、債務者学校法人○○大学(以下「債務者法人」という。)の教授である債権者らが、債務者夏谷次郎(以下「債務者夏谷」という。)を学長予定者とする旨決議した平成一二年六月一五日の債務者法人の理事会決議は無効であり、したがって、右決議を受けて債務者法人理事長春木太郎(以下「春木」という。)が債務者夏谷を次期学長に任命した行為も無効である旨主張して、債務者夏谷が学長及び理事として職務を執行することの停止を求めるとともに、職務執行代行者として申立外己村六郎(以下「己村」という。)を選任することを求めた事案である。

二  判断の前提となる事実等

1  債務者法人においては、学長の任命手続に関して、本決定末尾に添付するとおりの○○大学長候補者選考規程(以下「学長候補者選考規程」という。ただし、五条、六条の「教授」は「教授会構成員」と読み替える。)が定められているが、本件に具体的に関連する条項は左記のとおりである。(甲二、甲一八)

五条 教授会構成員及び助教授を選挙人とし、三名連記、無記名投票による得票数の上位三名を推薦する。

六条 前条により推薦された三名について、教授会構成員を選挙人として、二名連記無記名投票による選挙を行い、上位得票者二名を最終学長候補者とする。

七条 教授会は、最終候補者二名をすみやかに文書をもって理事長に推薦するものとする。

八条三項 得票数が同数の場合は年長者を上位とする。

九条 理事長は、最終候補者二名を理事会にはかり学長予定者を決定し、法人評議員会に報告のうえ学長就任の承諾を求めて任命する。

なお、学校法人○○大学寄付行為(以下「債務者法人寄付行為」という。甲一)一九条によれば、学長の選任に関する事項は、出席理事の三分の二以上の同意がなければならない理事会決議事項とされているから、学長候補者選考規程九条にいう「理事会にはか」るとは、理事会において出席理事の三分の二以上の賛成をもって最終学長候補者二名のうち一名を学長予定者と決議することを意味すると解するのが相当であり、また、寄付行為二六条には、理事長が、「あらかじめ評議員会に報告し、または意見を聞かなければならない」事項として「学長の選任に関する事項」をあげているが、決議を経ることは要件とされていないから(寄付行為二七条、私立学校法四二条参照)、学長候補者選考規程九条にいう「法人評議員会に報告し」とは、文字通り理事長が理事会決議を受けて決定した学長予定者を評議員会に報告することを意味すると解するのが相当である。

また、学長候補者選考規程にいう教授会の構成員は、○○大学教授会規程二条(甲一四)によれば、学長及び専任教授であると解される。

2  疎明資料及び審尋の全趣旨から認められる債務者夏谷が債務者法人の学長に選任された経緯は次のとおりである。

(一) 学長候補者選考規程五条に基づく選挙の選挙権を有する教授会構成員である当時の学長であった春木及び教授二四名並びに助教授二九名の合計五四名は、平成一二年五月三一日に、同条に基づく選挙(以下「第一次選挙」といい、本件についてされた選挙を「本件第一次選挙」という。)の投票をした。即日開票された選挙結果は左記のとおりである。

夏谷次郎(債務者) 三三票

己村六郎 三二票

丁原四郎(債権者) 三二票

春木太郎 二一票

庚島七郎 二票

(二) 前項の選挙結果を受けて、教授会構成員である春木及び教授二四名は、同日、引き続いて学長候補者選考規程六条に基づく選挙(以下「第二次選挙」といい、本件についてされた選挙を「本件第二次選挙」という。)の投票をした。即日開票された選挙結果は左記のとおりである。

己村六郎 一二票

夏谷次郎(債務者) 二票

丁原四郎(債権者) 二票

白票 一二票

(三) 教授会は、前項の選挙結果を受けて、理事長である春木に対し、最終学長候補者として己村と債務者夏谷を推薦した。なお、債務者夏谷は、債権者丁原四郎と得票数が同数であるが、債務者夏谷が年長者であることから、学長候補者選考規程八条三項により、債務者夏谷が上位者として最終学長候補者となった。

(四) 債務者法人の理事会は、同年六月六日、同月一五日に臨時理事会を開催し、同月一五日の臨時理事会において、教授会から推薦があった最終学長候補者二名のうち、債務者夏谷を学長予定者にする旨を出席理事八名(当時の理事数は九名)のうち七名の賛成により決議した。(以下「本件理事会決議」という。甲二〇、甲二一)

(五) 理事長である春木は、同年六月一五日、債務者夏谷を次期学長と決定して、これを評議員会に報告し、同月一九日、債務者夏谷から就任承諾を得て、同人を次期学長に任命した。(甲二〇)

(六) 債務者夏谷は、本年九月一日から、債務者法人の学長の地位にあるとともに、債務者法人寄附行為六条により、債務者法人の理事の地位にある。

三  債権者らの主張は、本件仮処分申立書、債権者ら平成一二年九月二〇日付け準備書面及び同月二八日付け主張書面のとおりであり、債務者らの主張は、答弁書及び債務者ら同月二二日付け準備書面のとおりであるから、これらを引用するが、債権者らが本件理事会決議が無効であるとする主張は、要するに債務者夏谷を学長予定者とした理事会決議は、本件第二次選挙の結果に現れた教授会の意思に反し違法だというものである。

第三  判断

一  学校法人における意思決定は寄附行為に別段の定めがない限り業務決定機関である理事会が行うから(私立学校法三六条)、学校法人が設置する大学の学長人事をいかに行うかについても、基本的にはその業務決定機関である理事会に決定権限があるというべきである。

他方、大学における重要な事項を審議するため教授会を置くと規定している学校教育法五九条は私立の大学にも適用され、また学長人事は大学における重要な事項ということができるから、業務決定機関である理事会は、学長を選任するにあたり、教授会の審議を考慮することも十分理由があることといえる。

ただ、理事会、教授会と並ぶ私立大学の運営に関する組織である評議員会については、理事長が学校法人の業務に関する重要事項についてその意見をあらかじめ聞かなければならない旨の法律上の規定(私立学校法四二条)があるのに対し、教授会の審議を学校法人の意思決定過程にどのように反映させ、位置づけるかについて明示した法律上の規定は存しない。

すなわち、学長選任手続における理事会と教授会の関係は法律上規定されているわけではないから、これらの関係をどう定めるかは、本来、学校法人の自主的、自律的な判断に委ねられているというべきであり、学校法人は、学長の選任過程に教授会の審議をどのように反映させ、位置づけるかについて、教授会審議の重要性に配慮しながらも、業務決定機関である理事会において決定することができると解するのが相当である。

したがって、私立大学における学長選任手続に教授会の意思を反映しない瑕疵があったか否かについては、学校教育法等から抽象的に論じるべきではなく、当該学校法人が自律的に制定している学長選任に関する手続規定があるのであれば、まずその手続規定に則して学長選任手続が行われたか否かによって判断すべきである。

二  これを本件について見ると、債務者法人における学長選任手続を定めた学長候補者選考規程の内容及び債務者夏谷を学長予定者とした本件理事会決議がされ、同人が次期学長に任命された経緯は前記第二の二のとおりであるから、本件理事会決議が債務者法人の学長選任の手続規定である学長候補者選考規程に従ってされたものであり、さらに同規程に従って債務者夏谷が次期学長に任命されたことは明らかであって、その過程に何ら瑕疵は存しない。

なお、本件理事会決議は、本件第二次選挙において最多得票を得た己村を学長予定者とするものではなく、次順位であった債務者夏谷を学長予定者とするものであるが、理事会が第二次選挙の得票順位に拘束されるべきことを命じた規定は学長候補者選考規程中にないのであるから、右のような結果が生じることは学長候補者選考規程上許容されているといわなければならず、右事実から理事会決議に瑕疵があるということはできない。

三1  債権者らは、理事会が、第二次選挙の結果に反する決議をするためには特段の事情が必要であり、もしそうでないとすると、そのような決議を許す学長候補者選考規程そのものが学校教育法五九条及び学長の選出に関する事項を教授会の審議事項とした○○大学学則八条に反し無効である旨主張する。

しかし、債務者法人寄附行為及び学長候補者選考規程を総合すると、債務者法人では、教授会に学長を決定する権限を与えないものの、最終学長候補者二名を推薦する権限を与え、その反面、理事会には、教授会から推薦された二名のほかに学長を選任することができないということにしてその権限を制限し、しかも決議要件を出席理事の三分の二以上の賛成決議を要するとして加重し、もって学長選任過程に教授会の審議を反映する方法を選択していると解されるから、債務者法人の学長選任手続に関する学長候補者選考規程は、教授会の審議を尊重するという点において、学校教育法五九条の趣旨に沿うものということができる。現に、この学長候補者選考規程に従った選考が行われた結果、今回の学長選挙では理事長兼学長であった春木が次期学長となる可能性が否定されたのであるから、同規程は実質的にも機能していると評価できるのであり、学長候補者選考規程が学校教育法五九条に反し無効であるとの主張は失当である。なお、学長候補者選考規程にいう「推薦」を債権者らが主張するように「報告」の意味に解しても、理事会と教授会の権限分配の関係が右のとおりであることは同じである。

また、○○大学学則八条(甲三)は、学長の選出に関する事項を教授会の審議事項とする旨定めているが、その審議の方法は、具体的には学長候補者選考規程に定められていると解すべきであるから、同条に反するから学長候補者選考規程が無効であるとの主張も失当である。

2  債権者らは、本件第二次選挙の結果を評して、債務者夏谷は教授会で不信任決議がされたのであるから、債務者夏谷を学長に選任することはできない旨を主張するが、第二次選挙は、第一次選挙で選ばれた三名の学長候補者から、教授会の選挙によって二名の最終学長候補者に絞る手続にすぎないことは学長候補者選考規程上明らかである。債務者夏谷に対して不信任決議がされたとの債権者らの主張は、選挙の結果を独自の立場で評価しているものにすぎず、前提において失当である。

3  債権者らは、債務者法人においては、第二次選挙で最多得票を獲得した最終学長候補者が理事会でそのまま学長予定者に決定されることが慣例となっているから、これに反する本件理事会決議に瑕疵があるかの主張をする。

甲二三によれば、確かに過去六回の選挙の結果は主張のとおりであると認められ、反面、第二次選挙において債務者夏谷のような僅かな得票しか得なかった最終学長候補者が学長に選出される事態は、過去の選挙結果に照らして異例であるということはできる。

しかし、理事会が学校法人の業務決定権限を有していることは、先に説示したとおりであり、これは債務者法人の根本原則である債務者法人寄附行為一七条にも定められていることであるから、過去の学長選任手続で理事会決議が第二次選挙の結果に従っているような事態が単に続いてきたというだけで、理事会の業務決定権限が教授会に委譲されるかのような解釈は採り得ない。

過去の学長選任過程の実績がどうであれ、それを根拠に本件理事会決議に瑕疵があるかにいう主張は失当である。

4  債権者らは、他大学における学長選任手続をあげて、債務者法人においても、教授会での選挙結果が最大限重視されるべきである旨を主張するが、先に述べたとおり、大学を設置する学校法人は、自律的にその学長選出方法を定め得るのであり、そのなかで教授会の審議をどのように位置づけるかもそれぞれの学校法人の自治の問題であるから、債務者法人において債務者法人が定めた学長候補者選考規程にしたがってされた本件理事会決議の当否を、他大学における学長選任手続を斟酌して評価するわけにはいかない。

5  債権者らは、己村を学長予定者に決定した理事会決議は、次期学長の地位を得る可能性がなくなった春木が、債務者法人を支配し続けるため他の理事に働きかけてしたものであるとして、右理事会において各理事には自由な判断が許されていなかったかのような主張をするが、そのような事実を認めるに足りる証拠はない。

また、債権者らは、春木を理事に選任するとともに、平成一二年九月一日以降の理事長予定者とする旨を決議した同年六月二二日の理事会決議の違法、無効も主張しているが、右決議の瑕疵の問題は本件理事会決議の瑕疵の問題とは関係がない。

債権者らは、そのほかにも春木が理事長在任中にした失策を主張するが、これらの主張が認められたとしても、本件理事会決議に瑕疵があることになるわけでないことも明らかである。

四  以上のとおり、本件理事会決議が無効であるとの疎明はないから、本件理事会決議が無効であることを前提として、債務者夏谷の学長及び理事としての職務の執行停止、その職務執行代行者の選任を求める本件仮処分の申立ては却下を免れない。

(裁判官森崎英二)

別紙○○大学長候補者選考規程<省略>

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